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2007年1月/2月

米国源泉税に関する税務コンプライアンス 〜 IRSはどこに向かうのか

著者: 

丹生谷佳子(ニューヨーク事務所税務マネジャー)
kniunoya@kpmg.com

 

山本有美(ニューヨーク事務所税務アソシエート)
yumiyamamoto@kpmg.com

丹生谷佳子

丹生谷佳子

山本有美

山本有美

2001年に源泉徴収と報告義務に関するルールの大幅な改正が行われ、Qualified Intermediary(適格仲介人)制度が誕生してから早6年が経過しようとしています。同制度により、QI資格を取得した外国の金融機関は、顧客から証明資料や認証を取得するなどの、一種のデュー・ディリジェンスを行うことにより、カストディアン等の米国源泉徴収義務者に対して(及び大抵の場合はIRSに対して)顧客の身分を開示することなく、米国源泉税の適正な徴収を受けることができます。このQI制度は大成功を収めているものの、米国源泉税に関するコンプライアンスは、依然としてIRSがその徹底に力を入れている分野です。最近、IRSは税務調査時に買掛金の詳細をレビューして、源泉徴収が適正に行われているかを重点的にチェックする傾向にあります。しかしながら、多くの納税者はクロスボーダー取引(米国非居住者への支払)に関しては源泉徴収義務を遵守するに十分な内部統制等のチェック機能を備えていないのが現状です。IRSが、支払先の租税条約恩典適用資格を証明する書類の不備や米国源泉所得に対する源泉徴収漏れを発見した場合、原則として支払額の30パーセントの源泉税が源泉徴収義務者に課されます。本稿では、IRSによる米国源泉徴収義務に関する税務調査の進め方と、日本企業や日本企業の米国子会社にとって米国源泉税関連のコンプライアンス向上に有益と思われる情報をご紹介します。

タックスギャップ
IRSによる最近の税務行政全てに共通することではありますが、本稿で取り上げる米国源泉税コンプライアンスをターゲットにしたIRSの一連の動きも、タックスギャップを縮小するためというより大きな政策課題を視野に入れたものです。タックスギャップとは、納税者が本来納めるべき税額と、政府が実際に徴収できている税額との差額です。IRSは、2001年のタックスギャップは約3,450億ドルと推定されると発表しました。その主な原因は、無申告、過少申告であり、最大の原因は過少申告であると考えられます。過少申告には、損金(税務上の費用)が過大計上となっている場合と、益金(税務上の収益)が過少計上となっている場合があります。2001年のタックスギャップは、個人による過少申告が約1,970億ドル、法人による過少申告が約300億ドルあると推定されます。

具体的にはタックスギャップの主な要因として以下のようなものが挙げられます。

  • 税法が複雑なことに起因するルールの誤解・誤用
  • IRSにおける人手、予算等のリソースの不足と、システム対応の遅れに起因する適正な指導・調査の欠如
  • タックスシェルター等を利用した納税者による悪質な租税回避行為
  • 税務プラクティショナーへの規制の不足
  • 企業取引のグローバル化により増加したクロスボーダー取引の情報不足に起因するIRSの認識不足

最近IRSが施行した法令遵守プログラムのほとんどは、何らかの形でタックスギャップの削減に寄与しています。一例を挙げると、様式M-3 は、IRSが実際に税務調査を行う前にスクリーニングをし、リスクの高い納税者に適切に人員を割り当てて税務調査の効率化を図るために導入されました。同様に、大規模法人に義務付けられた電子申告(E-File)には、申告書データの迅速な解析による税務調査プロセスの短縮に加え、IRS内部での納税者情報の共有を促進し、タックスギャップ縮小のための効果的な税務政策に結びつけるという効果があります。

源泉徴収義務者を対象とする税務調査に関する最近の傾向
近年、IRSでは税務調査の効率化や専門化が図られていますが、特にタックスギャップの縮小に寄与するような事例に焦点が当てられる傾向にあると言えます。

その一例として、IRSによる源泉徴収の徹底への取り組みが挙げられます。2005年の春から行われた米国源泉徴収義務者を対象としたVoluntary Compliance Programはその一環です。同プログラムには数百社の企業が参加し、その大半は金融機関でした。参加企業に多く見られた問題点の一つに、外国業者に対する米国源泉所得の支払いに対する源泉徴収義務等の知識不足または誤解が挙げられました。特に次のような支払いに不備や理解不足が見られました。

  • 外国企業により米国内で開催されたイベントの参加費用
  • 業務委託費用のうち米国内で作業した部分(受託業者による米国出張などがある場合)
  • 米国内で作業の一部が行われた外国コンサルタント等によるソフトウェア開発費

また、2006年の税務調査中に、IRSは源泉徴収のコンプライアンスに関して以下のような資料を請求する頻度が高くなっています。

  • 様式1099及び様式1042-S
  • 買掛金・売掛金の明細
  • 営業費用のインボイスのサンプル
  • 福利厚生費や役員報酬に関連する資料

上記のような資料を利用して、IRSはクロスボーダー取引に焦点を当てた源泉税関連コンプライアンスの調査を行うことが出来るのです。

また、IRS税務調査の近年の傾向として、少数の納税者を徹底的に調査するのではなく、出来るだけ多くの納税者を調査対象とするということもあり、調査件数が増加しています。

源泉徴収税のコンプライアンス促進策(Compliance Initiative Plan (CIP))
IRSが法令を遵守していない納税者に正しく納税・申告をしてもらう目的で、内部あるいは外部から入手したデータをもとにコンプライアンス不履行が予期されるエリアを特定し、一定の納税者グループを対象に行う活動を総称してCIPと呼びます。CIPには、以前は『申告書コンプライアンス・プログラム(Return Compliance Programs (RCP))』、『情報収集プロジェクト(Information Gathering Projects (IGP))』、『コンプライアンス2000プロジェクト(Compliance 2000 Projects)』等に分類されていた活動を含みます 。1

IRSは、2004年から2006年6月にかけて、ある種の源泉徴収義務者が利用できる源泉徴収及び報告義務に関する Voluntary Compliance Program(VCP)を実施しました。一般的に、VCPに参加した納税者は、源泉税手続、納付漏れ、報告上の誤り等をIRSに自発的に開示すると共に、罰課金なしに不足額を支払うことが出来ます。また、同プログラム参加者には、将来の法令遵守を確実にするための計画をIRSに報告し、それを実行することが義務付けられました。このプログラムにより、IRSが税収の増加を達成したことには相違ありませんが、その真の成果は参加者の将来のコンプライアンス向上にあると言えます。

IRSは、税法に関する知識不足、顧客書類の受領もれ、受領した顧客書類の不備等、VCPにより発覚した源泉徴収及び報告義務に関する問題点の改善策として、源泉税及び所得の支払いに関する報告義務と様式1042に関する税務調査を強化するため、CIPを開始しました。従来、源泉税の調査といえば、金融機関がカストディ業務の一環として行う利子及び配当金の管理・支払いに対して行われるものが主でした。しかし、CIPでは、金融機関偏重を改め、製薬会社、ハイテク関連企業、製造業等を含めた全業種による、FDAP所得(Fixed, or Determinable Annual or Periodical Income)の支払いを対象としています。FDAP所得とは、従来の利子、配当金等のポートフォリオ所得のほか、ロイヤルティ、賃貸料、弁護士報酬等を含むサービスフィー(業務委託費)、年金、奨学金、賞金、賞品等も含む。VCPや最近の税務調査を通して最近顕著になってきているIRSの調査手法としては、買掛金のレビューが挙げられます。

源泉徴収税に関する買掛金の税務調査を行うに当たって、IRSは外国業者に対する支払いの特定を次の3段階の手順で行います。

ステップ 1: 外国業者に対する支払額の特定
外国業者に対する支払いを特定するため、下記にポイントを置き、買掛金勘定を分析します。

  • 住所欄: 国名が米国ではない場合、州名が米国の州ではない場合、または郵便番号が米国の郵便番号ではない場合等
  • 納税者番号(Tax Identification Number (TIN)): 9桁のEmployer Identification Number (EIN) が98で始まる法人(98-xxxxxxx)、9桁のIndividual Taxpayer Identification Number (ITIN) が9で始まり4桁目が7または8の個人(9xx-7/8x-xxxx)、またはTINが空欄の場合等
  • 業者番号(Vendor numbers)が外国業者である旨を示唆している場合


ステップ 2: FDAP所得かどうかの判定
次に、ステップ 1 で特定された買掛金勘定に含まれる非居住者に対する支払いについて、ロイヤルティ、賃貸料、利子、サービスフィー、年金、奨学金、及び賞品・賞金等といったFDAP所得に該当する費用科目と比較します。

また、ステップ2に進む前に、調査官によって費用の分類の正確性が検証されることもあります。

ステップ 3: 米国源泉所得の確定
ステップ3では、ステップ1及び2で特定された支払いについて源泉地を確定します。通常、以下の場合には米国源泉であると考えられます。

  • サービス料: 役務が米国で提供される場合
  • 賃貸料:物件が米国に所在する場合
  • ロイヤルティ:知的財産権等により保護される資産から発生する所得が米国源泉である場合等(ロイヤルティの種類によって規定が異なる)
  • 利子:債務者が米国居住者の場合

また、源泉地が特定できない場合には、規則により米国源泉とみなされます。

米国非居住者に対する支払いで、米国源泉であるFDAP所得は、米国税法上は30パーセントの税率で源泉徴収する必要があります。但し、租税条約の恩典の適用を申請することで、軽減税率や免税の適用が可能となります。租税条約の恩典を受けるためには、様式W-8BENや様式8233(最終受益者が個人の場合)等の証明書類の入手が必要です。その目的は、@ 最終受益者が米国非居住者であることを確認する、A 租税条約の恩典適用が可能であることを確認する、というものです。源泉徴収義務者は、様式W-8または8233に有効な米国納税者番号(TIN)が記載されていることを確認する必要があります。公開有価証券に対する投資に関連した支払いを除き、租税条約の恩典を適用するためにはTINが必要です。TINのない証明書類の場合、原則的には30パーセントの源泉税率が適用されます。また、証明書類は、支払いに先立って受領する必要があります。 2

VCPで多数見られた様式W-8に関する不備として、納税者番号を確認せずに軽減税率を適用していたケース、米国内で非居住者が行ったサービスに対するサービスフィー(業務委託費用)等の報告対象取引について報告及び適正な源泉徴収を行っていなかったケース、並びに、支払い前にファクシミリで様式を受領した際、原本を90日以内に入手していなかったにも関わらず軽減税率を適用していたケース3等でした。

源泉税関連の税務調査への対応
源泉税関連の税務調査への対応として、IRSへ報告すべき取引を選定し金額を判断する手続きについてマニュアルを整備し、有効な証明書類が存在していることを確認する必要があります。また、源泉徴収事務に関連する部署の担当者へのトレーニングや、専門家による社内コンプライアンスのチェック、様式1042-S・1099作成等のコンプライアンス実務のアウトソーシング等も有用です。

 

1.“Internal Revenue Manual 4.17.1.2 Examining Process, Compliance Initiative Projects, Overview of Compliance Initiative Projects, Purpose and Scope”による。

2. Notice 2006-99により、財務省規則 1.1441-1(b)(7)(iii) 条は2001年1月1日から遡及的に失効する。

3. 財務省規則1.1441-1(b)(3)(iv)条により、90日以内に原本を入手できなかった場合、30%の税率で源泉徴収が必要となる。


KPMGのジャパニーズプラクティスは、数多くの日系金融機関や源泉徴収徴収義務者への様々な業務サポートを行っている他、日本企業及びその米国子会社の源泉税関連の税務調査への対応代行等も行っています。お問い合わせは、沢村百合子(212)872-3049、鈴木路夫(212)872-3310、門間利江(212)872-3634、丹生谷佳子(212)872-3574、山本有美(212)872-6023、及びKPMGの貴社担当者にご連絡下さい。

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